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死ぬ程後悔して、謝ろうと思っても真琴は恭平を見かけるとすぐに顔を逸らして逃げていく。
話をする機会も与えてもらえなかった。
恭平はしぶとい性格ではなかったので、ここまで拒否されてるならもういいや、と途中から追いかけることをやめてしまった。
でももし、もう一度チャンスがあれば、やり直したかった。
アイツがまた集団に囲まれていたら、
アイツの家が火事になって帰るところがなくなったら、
アイツがしつこい男につきまとわれていれば、
――すぐに助けてやるのに。
真琴のピンチに駆けつけるスーパーヒーローのような空想をいくつも考えた。
「柚木くん、日直でしょ。ちゃんと黒板消しておいて」
「わかってるっつの。真琴はうるせーなぁ」
「気安く名前で呼ばないで」
恭平の空想をバキバキにへし折るような真琴の態度に、恭平もさすがにイライラさせられた。
そんな調子で卒業までろくに話すことがなくなり、卒業後は一度も会っていない。
同窓会がある度に少し期待して行くが、自分を避けているのか真琴は毎回欠席だった。
正直に言うと真琴と別れた後、複数の女子とも付き合ったが、あの時ほど人に惹かれた経験はない。
強烈な思い出補正がいつも後ろ髪を引っ張っていた。
しかしそれも長い人生の青春の一コマ。
そんな風に恭平は捉えて、胸の古傷を抱えながらもそれなりに上手く器用に生きていた。
* * *
ある夏の日、出張帰りで普段使わない路線に乗っていると、目の前で怪しい動きをしている男を捉えた。
手の動きをよく見ていると、前にいる小柄な女性に痴漢をしているようだった。
見つけてしまったからには恭平の中で無視することはできなかった。
すぐさまその男の手を掴んで、高く上に持ち上げる。
「オッサン、痴漢だろ! 次の駅で降りろよ!」
まさかこの行動がまた彼女と引き合うことになるだなんて、この時の恭平はまだ気がついていなかった。
【終わり】
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