【第十二話】二人のはじめて

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【第十二話】二人のはじめて

 その日の夜、真琴は覚悟を決めて奏の寝室を訪れていた。  いつも以上に肌も髪もケアしてきたし、下着だって一番のお気に入りを着けてきた。  でも奏はそんな真琴の覚悟など気づいていないようで、呑気に読書なんかしている。  真琴は奏の服の袖を無言で引っ張ると、奏は本から視線を外し、真琴の方を見る。 「もう寝る?」  こくり、と無言で頷くと、奏は本をしまって灯りを豆電球に変えた。  二人はもぞもぞと布団の中に潜り込む。  真琴は無言のまま、奏の体にしがみつくようにくっついた。 「何? 今日は甘えてくるんだね」  奏は優しく真琴の頭を撫でた。  でも、真琴が欲しいのはそれではない。 「どうして何もしゃべらないの?」 「ねえ、私たちそろそろ付き合って一ヵ月だよね」 「そうだね。何か欲しいものでもあるの?」 「欲しいものっていうか……」 「ん?」 「……したい」 「何?」 「……えっちしたい」 「え?」  とうとう言ってしまった。  恥ずかしくて、抱きしめてくれている奏の胸に顔を埋めると同時にぎゅうっとその体を抱きしめ返した。 「真琴?」  奏が名前を呼んでくれるも、恥ずかしくて顔をあげられない。  完全に後戻りができなくなってしまって、体が硬直状態になってしまった。  奏は真琴の体をゆっくりと引き離し、顎に手をかけてその顔を上げさせた。  それでも真琴の視線はそらしており、目が合わない。 「ちゃんと僕の方を見て」  奏は子供を諭すように優しく伝える。  眉を下げて困った表情で、ゆっくりと真琴の視線は奏の瞳に移った。
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