【第十二話】二人のはじめて

6/6
前へ
/150ページ
次へ
「真琴、そろそろお昼だよ」  奏の声で視界が開く。  一度起きた後、いつのまにか真琴も二度寝をしてしまったようだった。  奏はすでに着替えを済ましており、真琴一人だけが全裸で布団の中に寝転がっていた。  急いで真琴も着替えて顔を洗い、起床の準備を整えた。  ダイニングに二人が揃うと、真琴の方から昨夜の話を持ち出した。 「昨日、そのまま寝ちゃったけど……きもちよかったよ」 「うん、僕もだよ」 「あんなに上手なのに、なんで今までシてくれなかったの」 「初めてだったから」 「へ?」 「昨日が初めてだったから、どのタイミングが正しいのかわからなかったんだ。あと、怒らないで聞いて欲しいんだけど……元々そういう欲が薄くて、しなくても平気だったんだ」  奏は昨日が初体験だった?  ということは、今まで二十六年間生きてきて、ずっと童貞だったということ?  あんなにモテていたのに、本当に真琴一筋だった?  初めてにしてはあまりにも手際が良かったし、的確にツボをついてきたのは?  何でもできる完璧超人は初体験も卒なくこなすのか?  あらゆる疑問が脳内を埋め尽くす。  真琴が呆然と奏のことを見ていると、奏は若干頬を赤らめた。 「変なことしてなかった……?」  可愛い。  真琴の母性本能が刺激され、庇護欲が急激に上昇した。  さすがに何も返事をしないと奏が可哀想なので、真琴も口を開いた。 「今までで経験した中で、一番幸せだった」  その言葉に奏は安心したようで、表情はいつも通りに戻り、 「じゃあ次は一番気持ちよかったって言ってくれるように頑張るね」    と、にっこり微笑みながら言った。  その声色と表情に真琴はドキリと嫌な予感がした。  初めてで余裕がなくてアレなのであれば、今後はどうなってしまうのだろう。  奏が真琴の性感帯を学習していくと考えたら少し怖くなった。  永遠と攻めあげられて余裕がなくなる姿が想像ついてしまって、体がひんやりとした。  恐ろしくなった真琴は早々にこの話を切り上げて、平静を装うので精一杯だった。 【第十二話 終わり】
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

328人が本棚に入れています
本棚に追加