【第十三話】病めるときも

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【第十三話】病めるときも

 十月も半ばに差し掛かろうとしている頃、季節も随分秋めいてきた。  外の空気はカラッとしていて少しひんやりとしている。  真琴にとっては一年で一番過ごしやすい季節だった。  この日、奏は会議で帰りが遅いと連絡があり、真琴は一足先に帰宅して夕飯の準備をしていた。  予想していた時間になってもまだ奏は帰ってこない。 『まだ帰れなさそう?』  メッセージを送ってみるも既読にならない。  ということはまだ会議が長引いているのだろうと理解し、出来てしまった夕飯を先に食べてしまうことにした。  奏の分を取り分け、ラップをしておく。  先に真琴が夕食を食べていると、玄関の方から物音がした。  思わず玄関の方に向かうと、奏が帰宅していた。  奏は何も話さず、ぼうっと下を向いてそこに立っていた。 「おかえり……?」  異様な立ち姿に違和感を覚えながらも声をかける。  すると、奏はゆっくり一歩ずつ真琴に近づいたかと思うと、ぎゅうっといきなり抱きついた。 「!?」  そのまま何も言わずに、ずるずると下に埋もれるように体を屈めてゆき、真琴のお腹あたりに奏の顔があるような体制になった。 「なになになに!?」  子供のような抱きつき方に戸惑う。  あまりにも疲れすぎて、子供帰りして甘えているのかと思った。  しかし、奏はまだ下にずるずると落ちていくかと思うと、そのまま真琴の横に倒れ込んでしまった。 「奏!?」  思わず奏の肌に触れる。  体温が異常に高い、熱があるようだった。
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