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家に戻ると、奏はぐっすりと眠っていた。
きちんと着替えも済ませていたようで、寝巻きの代わりにスーツがそこに置かれていた。
それを真琴はクローゼットに戻しておく。
起こしたら悪いと思ってその部屋を去ろうとすると、ベッドの中から掠れた声が届いた。
「真琴……」
「ん?」
「そばにいてほしい」
「ダメよ。私まで風邪がうつったら、二人の介抱は誰もしてくれないのよ」
「それはそれで、ずっと一緒にいられるから良いけど」
「バカなこと言ってないで早く寝る!」
奏は真琴の言葉を聞くとふにゃりと笑った。
こんなに弱々しく甘える奏は珍しいから、もっと眺めていたい気もするけど、自分も崩れるわけにはいかない。
真琴は自分の心を律するように表情を引き締めた。
「買いだめしたからしばらく家の中から出る必要はないと思うから。すぐ近くにいるし、何かあったらすぐに呼んで」
奏にかかっている布団を綺麗に正して、奏の頬にキスをした。
「これで我慢してね」
奏は頷き、ゆっくりと目を閉じた。
その様子を見て、真琴は奏の部屋を去る。
自分の部屋から布団を持ってきて、リビングに移した。
リビングと奏の部屋は隣り合っているので、小さな声でもすぐに拾えるように、今日はリビングで一夜を明かすと決めた。
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