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【第十四話】生まれたところ
ある日、帰宅した奏が一通の封筒を真琴に差し出してきた。
マンションの郵便受けに真琴宛の手紙が届いており、差出人は書いていないとのことだった。
真琴は首を傾げながらその封筒を受け取る。なんの変哲もない、手紙サイズの封筒だった。
「それ、大丈夫? 危ないものとかじゃない?」
奏は心配してこちらを覗きこむように見つめて聞いてきた。
「とりあえず、中を見てみる」
少し警戒心を持ちながらも封を切り、中身を触らずないように気をつけた。
封筒を逆さまにして机の上に落としてみた。
すると、内側向きに二つ折りされた一枚の便箋だけが入っており、特に危険物はなさそうだった。
真琴は恐る恐るその便箋を手に取り、広げて読んでみる。
奏には手紙の中身を見えないようにしながらその本文を読んでいく。
「晶ちゃんからだ」
「晶?」
「奏の妹の」
「……何て書いてあったの?」
「家に遊びに来ないかって……。敷地の紅葉がとても綺麗な季節になったので、ぜひ見に来てくださいって書いてある」
「何で真琴宛に?」
「あー……、この前のお礼にって……」
「この前?」
「この前、街で偶然会ったの。迷子になってたみたいだから、案内して……。そのお礼、だと思う」
「ふぅん、初耳なんだけど」
奏は笑顔を見せた。圧を感じる偽物の笑顔だ。
晶と遭遇していたことを報告しなかったのが気に障ったようだ。
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