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「んで! 先輩って私のこと完全にナメてるけど本当は私のほうが一枚上手に立ち回ってやってんのよ! そう思わない!?」
茹蛸のように顔を真っ赤にし、呂律が回っていないのにも関わらず声を張って話しているのは真琴の方だった。
あろうことか真琴の方が先に酔っぱらってしまい、しかも日頃のうっぷんを発散し始めた。
「真琴、もう酔っぱらってるの? 弱くない?」
「弱くないわよ! 奏はさっきから全然飲んでないじゃない! ずるい! 飲んでくれないなら出てく!」
「わかった。飲むから、落ち着いて」
奏は相手の勢いに負けて缶ビールに口を付けた。
その間に真琴は二本目を開け、その勢いは留まることを知らなかった。奏もペースは遅いがちょっとずつビールを口に運んでいた。
真琴は二本目も勢いよく飲み干したあと、ふらふらと立ち上がり冷蔵庫の方へ向かったかと思うと、帰ってきた際にはまた缶ビールを二本持っていた。
「いや、さすがにもう次の一本で最後にしよう。ね、良い子だから…」
「違うわよ、こっちは奏の! それ、開けてから随分経ったでしょ。もう新しいのに変えちゃえば――」
そう言って奏の缶ビールを取りあげると、それは全く減っている様子がなかった。
飲むペースは遅かったが、こんなに残っているはずはない。
フタを開けた時と全く変わっていない量のビールが残っていた、ということは、奏は口を付けるフリをして、全く飲んでいなかったのだ。
自分は本性を曝け出し、歩み寄ろうとしたのに、結局彼はそれを無下にしていたと感じた真琴はまた目を真っ赤にし、今度は涙が零れそうなくらい潤んでいた。
真琴の嫌がる反応を楽しむきらいがある奏だが、本気で悲しむ顔は見たくない。
真琴の潤んだ瞳を見て、奏はまた諦めたように息を吐き、小声でなにかを呟いた。
「ねえ、どうなってもしらないよ?」
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