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「別に報告するようなことじゃないし、その時はそれどころじゃなかったっていうか……。あと、怒る前に先に言っとくけど、お兄さんも一緒だった」
「……棗のこと?」
「確かそういう名前だったと思う」
奏は溜息のように一息つくと頭を左右に振った。
「ごめんって……」
真琴はその気まずい空気に耐えきれず、思わず謝ってしまう。
「真琴があの家に行く必要ないよ」
「でも……」
「返事なら僕から出しておくから」
晶が差出人不明て手紙を送ったのは、先に奏の手に渡ると真琴の知らないところで手紙を処分されるからだろう。
奏の発言から真琴はそう感じとった。
「待ってよ! これは私宛の手紙だし、私に招待が来てるのよ! 良かったら奏も連れてきてくださいって書いてはあるけど、奏は行きたくないから行かなかったらいいじゃない」
「真琴は行くってこと?」
「せっかくだし、行ってみたい……。奏は嫌がるかもしれないけど……奏のこと、一つでも多く知りたいなって思って」
先程まで呆れた顔をしていた奏だが、真琴のその言葉を聞いて、少し表情が緩む。
「わかったよ。でも、僕も行くから」
奏も無事承諾してくれたことで、真琴の心は弾んだ。
最近は自分はつくづく奏について無知だと思い知ることが多かったので、彼が生まれ育った実家を知れるということに期待が膨らんだ。
しかし、もしご両親がいた場合はご挨拶することになる。
お金持ちの一家のようだから、失礼がないようにしなければと、緩んだ表情を少し引き締めた。
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