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十一月の上旬、この日は雲ひとつなく澄んでいた。
青空が気持ち良い、行楽日和だった。
今日はいよいよ奏の実家にお伺いする日だ。
真琴は朝から丁寧にヘアメイクを施し、洋服を並べて悩んでいた。
その中から上品でお淑やかなグレーのワンピースを選んで、奏の前に姿を見せた。
「ねえ、この格好で良いと思う?」
「可愛いよ」
「可愛いとかじゃなくって、その場にふさわしいかどうか聞いてるの」
「どうせ両親と会うことはないから、そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ」
「え、そうなの?」
万が一を考えて気合いを入れたヘアメイクをしていたものだから、拍子抜けと言わんばかりに顔の力が抜けた。
「確認したら、父は出張で家を空けているって」
「お母さんは……?」
「あの人と会うことはないから」
「?」
奏は意味深な物言いをしたものの、奏の家が複雑な事情を背負っていることを知っている真琴は、それ以上突っ込んで聞くことはできなかった。
予定の時間になると、家のチャイムがなった。
瀬戸家から送迎の車が来ているらしくて、それが到着した知らせだった。
黒のセダン車の後部座席に奏と真琴は乗り込み、出発する。
車内では運転手はもちろん奏とも会話をするような雰囲気ではなかったので、真琴は何も話さず、ただ窓からの景色を眺めていた。
今まで通ったことのない道を行くので、その景色は見ていて新鮮だった。
少し都心部から外れて、住宅街のような街並みになってきた。
その住宅も、ひとつひとつが大きく、凝ったデザインの家が多く、この周囲が高級住宅街であることが一目でわかる。
その中をさらに進み、周りに家が少なくなったかと思うと、お寺のような大きな門が聳え立っていた。
車はその門の前で一旦停まると、徐々に門が開いていく。
その門の中には一本道が続いており、辺りは丁寧に手入れされた庭園が広がっていた。
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