【第十四話】生まれたところ

4/12
前へ
/150ページ
次へ
「ここからは瀬戸の敷地なんだ」  漫画に出てくるような典型的な豪邸に真琴は驚く。  それに今見えているのは庭園であって、屋敷らしきものはまだ遠く離れた場所に見える。  車はその一本道を奥へと進んでゆき、屋敷に到着した。  神社仏閣のような趣のある大きなお屋敷が瀬戸の家だと知り、真琴は再び驚いた。  奏はどちからというと洋風なイメージだったので、ここまで和風な家だとは想像していなかった。  屋敷の入り口で二人は降車し、奏は何の躊躇いもなく、玄関扉を開いた。  そして真琴の方を振り向き、「どうぞ」と一言呟いた。 「お、おじゃまします……」  恐る恐る玄関の門を潜る。  脱いだ靴を揃え、奏の後ろに隠れるようについていく。  使用人らしき人が奏に声をかけてきた。 「晶様はお部屋にいらっしゃいます」 「わかった」  淡々とした会話を済まして、奏は歩みを進めた。真琴もその後ろをついていく。  二人きりの廊下で、ひそひそ声で奏に話しかけた。 「そういえば、今日は棗さんはいるの?」 「棗は今外出しているみたい。夜には帰ると思うけど。会いたかったの?」 「いや、そういうわけじゃないけど。この前会った時、なんだか可愛げのある人だなって思ったから……」  奏の足がピタリと止まり、無言でこちらを振り向いた。  ぐっと顔を近づけて、優しいような、冷たいような視線を突きつけてきた。 「いくら兄弟でも、他の男を褒めてると嫉妬するんだけど」 「そんなつもりは……」  奏はその美しい顔を真琴の目の前にまで近づけてきた。 「ごめんってば……」  真琴の反省を感じ取ると、奏は笑顔に戻る。  自分も先日嫉妬してしまったから気持ちはわかるが、奏の嫉妬心は少し敏感すぎると真琴は感じていた。  そのまま二人は廊下を奥に進んでいき、奏はとある襖の前で停まる。  その襖はやけに豪華な装飾が施されており、曼珠沙華の絵が描かれていた。 「晶、入るよ」 「どうぞ」
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

328人が本棚に入れています
本棚に追加