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襖の奥から晶の声がした。
奏は襖を開けて、中に入ると、部屋の中央に振袖姿の晶がいた。
制服以外の姿を初めて見たが、いつも以上に大人びて見える。
「晶ちゃん、こんにちは。お手紙ありがとう」
「真琴さん、この前はありがとうございました。お兄様もとても喜んでいました」
「それは良かった」
「今日は是非そのお礼がしたくて。あと、真琴さんともたくさんお話しがしたいです。奏も帰ってきてくれて嬉しい」
晶の言葉に奏は特に返答しなかった。
それからは晶は真琴に、自分の学校の話や家の中の話を語った。
晶曰く、家の中でも外でも自分の好きなものを話せる人がおらず、寂しさを感じているようだった。
奏はそれに対して何も口を挟まずただ聞いていた。
晶が一通り自分の話を終えると、今度は真琴に質問攻めをしてきた。
〝真琴さんは男性とお付き合いをされたことがありますか?〟や〝どのような男性が好みですか?〟など、恋愛に関する話ばかりだったので、横にいる奏の視線が痛かった。
「結局、お二人は恋人ということではないんですよね」
「恋人だよ」
口を挟んだのは奏だった。
一連の話題に痺れを切らしたのだろう。
その言葉を聞いて無表情に近かった晶の瞳が少しだけ見開いた。
「なるほど、理想とは違う方とお付き合いすることもあるんですね」
「あはは……」
真琴は思わず苦笑いをしてしまう。
この兄妹の空気感が未だに掴めない。
真琴は少し心を落ち着かせるために、ひとり席を立ち、お手洗いに向かった。
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