【第十四話】生まれたところ

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「奏はあなたにご執心だそうですね」 「……」 「あなたたち二人はもう婚約関係なのですか?」 「婚約はまだしていません。けど、お付き合いをさせていただいています」 「そう。覚えておいてほしいのだけれど、絶対に子供は作らないと約束してちょうだい」 「え……?」 「瀬戸の家の跡取りをややこしくすることはしないでと言っているの」 「えっと……」 「奏の血筋を残す必要はないの! 棗はまだ結婚していないのよ! なのに先に奏が子供を作ったらどうなるのよ! 絶対に許さない!!」  加奈子は先程までの気怠げな雰囲気から一変して、目を見開いて声を荒げた。  その豹変ぶりに真琴は硬直してしまう。 「あの女の! 血を! 残すなと言ってるの!! これ以上瀬戸を汚さないで!!」  真琴には加奈子が何に発狂しているのかわからなかった。  その場で固まったままでいると、背後の襖が開き、思わず振り返る。  そこには奏が立っていた。 「お母様、約束は守るから彼女に危害を与えるのはやめてください。ほら、真琴。戻ろう」  奏は無表情で淡々と加奈子に話しかけると、真琴の腕を引いて立ち上がらせた。  まだ喚いたままの加奈子をそのままに、奏は真琴をその部屋から連れ去った。  襖をぴしゃりと閉めて、真琴の腕をひっぱったままその部屋から離れていく。  奏は加奈子の発狂を慣れたもののように無視していた。 「ごめんね」 「いや……大丈夫。ちょっとびっくりしちゃったけど」 「あの人はもう壊れちゃってるんだ。見なかったことにして、忘れて」 「……」 「真琴?」 「私が……軽率に奏の家に行きたいって言ってしまったから……ごめんなさい」 「大丈夫だよ、気にしないで」  奏は優しく微笑むと、引っ張っていた腕を離し、手を繋ぎ直した。  奏の大きな手に包まれると、ざわついていた心がほっとしたように落ち着く。
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