【第十四話】生まれたところ

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「戻りが遅いから晶も心配してたんだ。戻ったら庭園の紅葉を見に行こう」 「うん」  その後晶と合流し、瀬戸の屋敷内に広がる紅葉を三人で眺めに行った。  美しい紅葉が広がる景色を貸切状態で見ることは滅多にないので、幻想的な空間に心を奪われた。  その他にも晶は敷地内を案内してくれて、手入れが行き届いた見事な庭園を見ることができた。  その後、晶の提案で夕飯までご馳走になっただけでなく、なんとその日はそのまま瀬戸家に宿泊することになってしまった。  旅館のような大きなヒノキ風呂に一人入浴しつつ、真琴は今日一日のことを思い返す。  奏のことを少しでも知りたいと思って訪れたが、想像以上に真琴の知らない世界がそこにあった。  加奈子の表情と声がまだ心のどこかに淀んだ状態で残っている。  奏は彼女の言葉をどう思っているのだろうか。  今までもあのような言葉をかけられてきたのだろうか。  そう思うと、胸が苦しくなった。  お風呂を済ませ、案内されていた客間に戻ると、そこには奏もいた。  また、二人分の敷布団まで用意されていた。 「え? 一緒の部屋なの?」 「うん」 「奏の部屋はあるんじゃないの?」 「この家に僕の部屋はもうないんだ。だから戻った時はいつも客間だよ」 「そうなんだ……」  また胸が苦しくなる。 「それより浴衣が似合ってるね」  その浴衣は瀬戸の家から部屋着用として用意されたものだった。  普段と違う格好を見られるのは少し恥ずかしかった。 「真琴、おいで」
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