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真琴の手から自分の缶ビールを再び取り戻し、ゴクゴクゴクと喉をならしながら、一気に半分ほどを飲み干した。
その後、缶ビールをダンッと机に勢いよく置いて、そのまま下を向いて動かない。
真琴はあまりに素早い一連の行動に驚き、ただじっと見ていた。
俯いたまま動かない奏の背中にそっと手を添えて、顔を覗き込もうとするも、どんな表情をしているのかは見えない。
その直後に奏は体を起き上げ、勢いよく真琴の手首を掴む。
気が付けば真琴の眼前には奏の顔しか映らないほど近づいていた。
そしてそのまま押し倒されるようにソファに横たわる。
奏は見たことのまい表情をしていた。目はとろんと焦点が定まらないようで、頬もうっすらと赤みを帯びている。口は緩んだように少し開いたまま動かない。唇はビールに濡れてキラキラと光っていた。
奏は真琴以上にお酒に弱かったのだ。
異常な近さに身の危険を覚え、真琴は少し酔いが醒めた。
しかしまだ、先ほどまで浴びるように飲んだアルコールは完全に抜けきらない。
体に力が入らないし、思考も上手く定まらない。体があつい。
日頃から奏の人格は理解できず、敬遠していたが、正直のところ、その美しい顔だけは好きだという自覚があった。
その顔が熱を帯びてこんなに近くにあるので、どこを見てよいかわからず恥ずかしさでいっぱいになるも、目を逸らすことができずに、真琴の丸い目は大きく見開いて釘付けになっていた。
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