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二月六日(同棲三日目)
真琴が目を覚ますと、時刻は朝六時を少し過ぎたところで、キッチンからは物音が聞こえる。
半分寝ている頭でのそのそと布団から出て、キッチンへ向かう。
キッチンからはリビングを一望できるのだが、昨日運んだ布団はすっかり片付いており、奏が朝食の準備をしているところだった。
その光景を見た瞬間、昨夜の出来事を鮮明に思い出し、電撃が走ったように体と思考が固まる。
「おはよう、真琴」
奏はいつも通りの薄笑いを向けていた。
この反応は昨夜のことを覚えていないのだろうか? しかし、知らんぷりをしてこちらの反応を面白おかしく楽しむような男でもあるので油断ならない。
どうしていいのかわからず、何も言わず固まっていると、奏は続けて声をかけてきた。
「どうしたの」
本当に不思議そうな目でこちらを見ていた。
真琴はなんとなくの勘で、奏は昨日のことを覚えていないかもしれないと考えた。
あんな少量で自我を失うほど酔っ払い、暴走し、果ては寝落ちしてしまった男だ。記憶に残っていないほうが当然だ。
真琴はそろりそろりと動き出し、椅子に腰をかける。
「今日は仕事に行くの?」
「そうだね」
「そう」
いつも通りの端的な会話をするも、終始変わらぬ反応なので、真琴も安心していつもの調子に戻ることにした。
何事もなく朝食を終え、リビングで朝のテレビ番組を眺めていたら、奏はすっかり出勤用のスーツに着替え終えていた。
ここ連日ずっとオフの姿を見ていたため、仕事モードの姿を見るとギャップに少しだけ心が揺れる。
悔しいけれども、ルックスだけは好きだと改めて思う。
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