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【第一話】愛などなくとも
轟々と燃え盛る炎。いつも見慣れたはずの我が家が濃い黒煙をあげて燃えている。
日常であるはずの場所が非日常になっている光景に、私はただ呆然と見ていることしかできなかった。
私は住む家をなくしてしまった――。
* * *
二月四日(初日)
「本田さん、これコピーとって課長のとこに渡しといてね」
「はい、わかりました!」
女はゆるいウェーブがかったロングヘアーを揺らして、雑務の押し付けに快く返事した――と、思いきや
「ったく、自分でやってよね」
と、相手には聞こえないボリュームで悪態をついた。
そうはいっても、相手は用事を一方的に押し付けると、こちらの返事を聞くよりも先に立ち去っていたので、元々聞こえるはずはない。
雑務を押し付けられた女――本田 真琴はいたって普通のOLだ。
入社二年目にして同じチームの先輩に顎で使われるのはもう慣れていた。
正直言うと、自分の仕事は自分でやるようにと正論をぶつけたかったが、社会で生きるためには波風立てずにうまくやることも必要だと理解していた。
実際、先輩の雑務をこなしていると、他部署の人間と関わる機会も多く、顔が広くなるので、キャリアアップを目指している真琴にとっては今はこれで良いと思えていた。
それでも、心に積もる不満の種は次第に膨らんでいく。
今日は何がなんでも定時退社し、贅沢なケーキでも買って帰ろうなんて考えていたら、同僚から呼び止められた。
「本田さん、電話。受付から転送きてる」
「受付から? 何だろ…… はい、本田です」
「受付です。本田さん宛にアパートの大家と名乗る方からお電話が入っておりますが、このままお繋ぎして良いですか?」
「アパートの……? はい、お願いします」
心当たりのない着信に動揺を隠せなかった。嫌な予感がどっと迫ってきて、鼓動のリズムが早くなっているのを感じる。
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