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突然人が立っていたものだから、御堂は驚き目をまん丸に見開いた。もしかしたら小さな悲鳴も漏らしていたかもしれない。
玄関に佇む男は笑顔を浮かべているが、仮面が張り付いたような、冷たく偽物の笑顔のように感じた。
「送り届けてくださったんですね。ご苦労様です。あとはこちらで対応しますので……どうぞお引き取りください」
「え? あ、はい……」
男の笑顔は一ミリたりとも変化することがなかったのが、より恐怖心を煽った。
男は御堂から視線を逸らすことなく、真琴だけを引き寄せる。
「えっと……御堂くん、送ってくれてありがとう……ごめんね。じゃあ、また……」
「夜分遅いので、お気をつけて。〝御堂さん〟」
御堂は蛇に睨まれた蛙の如く、その男から視線を外せなかった。
真琴の最後の言葉には、彼女自身も困惑したような声色が混じっていたのが気になったが、その時の真琴の表情を確認することなどできなかった。
御堂は一方的に失恋したような何とも言えない感情になり、返事はせずにそそくさとマンションを立ち去り、待たせていたタクシーに乗り込み自宅へと向かう。
タクシーの運転手も何かを察したのか、御堂の落胆ぶりに声をかけることなく、無言のまま出発したのであった。
【終わり】
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