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【第二話】君は勝手ばかり
夜十一時を回った頃、二人には秘密のルーティーンが成立していた。
夜食やお風呂など、その日のうちにするべきことを済ませた後、奏はいつもリビングのソファで寛いでいる。
それが二人にとっての〝合図〟だった。
これから寝る支度に取り掛かろうかというタイミングで、真琴も無言でリビングにやってくる。
ソファで読書をしていた奏は、何もかも承知した様子で、そっと本を畳んでテーブルに置く。
奏の両手が空いたのを見計らい、真琴は奏の横に座ると、お互い顔を向い合わせ、そのまま互いの距離を近づける。
唇が触れ合い、最初は優しく、徐々にお互いの口内の境界がわからないほど溶け合うようなキスをする。
「ん、ぁ…はぁっ、んん…っ」
どちらのものともわからない吐息と唾液の水音だけが部屋に響く。
五分ほど経った頃、満足したのか二人の唇はゆっくり離れていく。
二人は荒く息が弾んでいたが、徐々に落ち着きを取り戻す。
終始無言のまま目を合わせていたが、真琴のほうが先に言葉を切りだす。
「じゃ……おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
真琴が逃げ去るようにリビングを出て、自室に戻ると、ご丁寧にガチャリと鍵が閉まる音が響いた。
奏は真琴が自室に戻ったのを見届けると、テーブルに置いた本に手を伸ばし、読書を再開した。
この一連の行動は、最近では毎夜のように繰り返されていた。
一緒に暮らし始めて数日が経ったが、依然として二人は恋人関係ではない。
にも関わらず、一般的にいう「タバコを吸う」「コーヒーを飲む」行為と同じくらい、日常的な〝ストレス発散〟としてキスを繰り返していた。
真琴にとっては、これは良くない関係であると頭では理解しつつも、あの快楽と興奮を体が勝手に求めてしまい、摂取せずにはいられなかった。
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