【第二話】君は勝手ばかり

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 真琴は職場復帰後、節約のためにお弁当を自炊するようになっていた。  お弁当生活を開始すると決めた際、奏は自分にも作って欲しいとねだってきた。  一人分のお弁当というのは量が難しく、二人分作る方が楽だったことと、部屋を貸してもらっている恩がある手前、真琴は渋々それを了承した。  朝の短い時間でお弁当の準備を終え、朝食中にふと質問を投げる。 「そういえば、奏は食べ物の好き嫌いってあるの?」 「好き嫌いはないよ。小さい頃からそう(しつけ)られたしね」 「ふぅん。そういえば、奏の家族って――」  突然、テーブルの端に置いていた真琴のスマホが、バイブ音と共に(けたたま)しく鳴り響いた。  まだ朝方だというのに誰からだと不審に思いながらスマホに手を伸ばすと、真琴の母からの着信だった。  家族に何かあったのかと思い、慌ててそのまま応答ボタンを押す。 「お母さ、」  スマホの向こうからは第一声も遮るほど高く興奮した声が耳をつんざく。 「ちょっとアンタ! 聞いたわよ! 奏くんのところにお邪魔させてもらってるんだって!? それならそうと最初から言いなさいよ、もう!」 「は、待って、誰からそれ聞いたの」 「奏くん本人よ! ご丁寧にお手紙と差し入れを送ってくれて、連絡してくれたのよ! ほんっとうに気が利いて素敵な人よね……お母さん、ああいうお婿さんが欲しいわ♪」 「待って待って……確かに奏のとこにはお邪魔させてもらってるけど、私たち別にそういうのじゃないから!」 「あらそうなのぉ? でも奏くん独身なんでしょ? 見た目もカッコいいし、昔から優秀な子だしさぁ、アンタ狙っちゃいなさいよ!」  頭が痛くなる。勘違いを訂正するのも面倒な程〝奏に対する意見〟が違いすぎる。  ひとまずその話題は隅に置き、近況を簡単に説明して、今日もこれから仕事で長話はできないと伝えて話を終わらせた。  真琴は最後にもう一度「奏とはそういうのじゃないから」と念を押し、電話を切る。  そしてすかさず奏を睨み付けた。
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