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「ねえ! 何で勝手にウチに物送り付けてんの!」
「ご実家の電話番号は知らなかったから。やっぱり嫁入り前の大事な娘さんを家に連れ込んでる以上、親御さんは心配するでしょ? これくらい当然の礼儀だと思うけど」
「私はアンタのとこにいるなんて伝える気なかったの!」
真琴はずっと奏のことを睨み続けていたが、奏には全く響いておらず、ノーダメージのようだった。
恐れていた通り、この男は外堀を埋めて周囲の信頼を勝ち得ることに関しては天才的で、真琴が反発すればするほど周囲からは白い目で見られる。
憤慨しながらも、家を出る時間が近づいていたので、乱雑に準備を整えて、奏よりも先に家を出る。
真琴と奏の職場は最寄駅が一緒のエリアだが、いつも別々に出発し、一緒に通勤することはなかった。
時間が経ち、職場に着く頃にはいくらか心は落ち着いていた。
ここでやることは火事騒動の前後で何ら変わりはない。先輩にパシられながらも淡々と自分の仕事をこなすだけだった。
お昼の十一時を回った頃、受付スタッフの女性が真琴を訪ねてきた。
「本田さん、お客様が来られています」
なんだろうと思って受付スタッフの方を見やると、その後ろにはにこやかな笑顔を浮かべ、高級感のあるスーツに身を包んだ長身の男が立っていた。
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