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でもそれ以上に、この時奏が見せた穏やかで優しい笑顔が、胸を貫くような衝撃を与えたことのほうが大きかった。
こんな風に自然な微笑みを見せられたら、奏の言うことを叶えてあげたいような気になってくる。
この時の真琴は、奏の言葉に肯定も否定もしなかった。
猫カフェを退店すると、真琴は十分満足そうな顔色だった。
折角だし夕食も食べて帰ろうという奏の提案に真琴は賛成する。
近場にあったピザ専門店の看板写真があまりにも食欲をそそるので、夕食はそこに即決した。
定番のマルゲリータを楽しんでいると、奏の方から会話を始めた。
「さっきの、本気だよ」
「さっき?」
「僕は本気で、真琴とずっと一緒にいたいなって思ってる」
「……そう」
最早プロポーズでもおかしくない言葉を平然と言いのけるので、真琴は赤らんだ顔を隠すために飲み物を口元に運ぶ。
そういえば最近は少しずつ会話が増えた気もするが、先ほどの言葉のせいで恥ずかしくなってしまい、真琴は無口で食事をすすめた。
夕食も終えて店を出た頃には夜の八時を回っていた。
二月の夜は冷える。肌を刺すような冷気が鋭く身に染みた。
そろそろ帰る時間という雰囲気だったのに、奏は真琴の腕を軽く掴んで引き留めた。
「最後にもう一ヶ所だけ。すぐそこだから」
「? ……構わないけど」
今いる飲食店街を抜けて、大道りの方に出る。
すると、その通りにずらっと並んで銀杏の木が植えられおり、その全てが美しいライトブルーのイルミネーションで装飾されていた。
真琴の目で捉えることができる端から端まですべての樹木が幻想的な青で光り輝いていた。
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