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それはまるで青い樹氷の世界のようだった。その光は真琴の瞳の中にまで入り込み、無数にゆらめいている。
「綺麗でしょ」
「うん……すごい……」
真琴はイルミネーションに心を奪われたように、じっと光の中を見つめている。
「真琴、寒くない?」
「ちょっと寒いかな」
「手繋ぐ?」
ロマンティックな空気に流されそうになるも、はっと我に帰って奏の方に体を向き直し、
「人に見られるかもしれないから、外でそういうことはしない!」
と言って、眉を吊り上げ、いつもの調子で奏を睨みつける。
一緒に出歩くのは良いのに? と奏は疑問に思うも、また真琴の機嫌を損ねないように何も言わないことにした。
真琴は一緒にいるところを見られるだけなら恋人ではないという言い訳が効くと思い込んでいるようだった。
それから二人はその光の道を少しだけ歩いてみることにした。
ずっと見ていられるような幻想的な光に目を奪われながら、時々言葉を交わしつつ歩み続ける。
「そろそろ冷えるし、タクシー拾って帰ろうか」
十分ほど歩いた頃合いで、奏は立ち止まる。
ちょうど数メートル先に空車のタクシーを見つけたので、慣れた様子で片手を上げると、タクシーはスピードを下げて、二人の前でぴたりと停まった。そして流れるように後方のドアが開く。
奏が「どうぞ」と譲ると、先に真琴が乗り込み、続いて奏が乗車する。
奏は運転手に自宅の住所を伝えると、徐々に車は進みだす。
タクシーに乗っている間も、窓から道沿いに並ぶ青の光をぼうっと眺めていた。
すると、真琴の左手の甲をちょんちょん、と何かがつつく。
目線を窓から外し、手元を見てみると、左側に座る奏が真琴の手をつついていた。
何をしているのかと思い、奏の顔に目線を向けると、相手もこちらを見つめていた。
どういう意味があるのか疑問に思っていると、ふと左手の甲に暖かいものが覆いかぶさる。
その暖かいものの正体は、真琴よりも格段に大きく、骨張った、奏の手だった。
「ここだったらいいよね?」
奏は顔を近づけ、小声で耳打ちをする。
真琴はまた窓の方へそっぽ向き、小さく呟いた。
「好きにしたら」
その言葉の後、左手に覆いかぶさった大きな手はスルスルと動き、指と指の間を絡めるように互いの手を繋ぐと、目的地に到着するまでの間ずっと、優しく繋がったままだった。
【第二話 終わり】
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