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「お先に失礼します。お疲れ様です」
定時を迎え、会社を出てすぐに真琴は溜息をひとつ吐いた。
いつもの軽快さはなく、とぼとぼと駅に向かっていると、向かい側から〝例の女性〟が歩いてくるのを発見してしまった。
思わず相手の顔をじっと見てしまう。
その人は真琴の人生において今まで見たことがないくらいの美人で、同性から見ても思わず見惚れてしまうほどだ。
すると、向こうはこちらの視線に気付いたのか、バッタリと目が合ってしまった。
相手はこちらの顔を見た途端に目を見開き、驚いたような表情をしていた。
その女はハイヒールをカツカツと鳴らしながら一直線でこちらに向かってくる。
真琴は焦った。咄嗟のことだったので逃げることができず、相手はもう目の前まで来ていた。
何を言われるのかと身構える。
「君、もしかして〝真琴〟?」
女は開口一番、真琴の名前を口にする。
彼女が何故か自分を認知していることに驚き、怯えながら真琴は応える。
「そ、そうですけど……」
「ようやく会えた! 君に会える日をとても楽しみにしていたよ!」
「へ……?」
女はどこか男口調のような独特な喋り方をする。
「こんなところで偶然会えるなんて! あ、時間は大丈夫? 良かったらお茶でもしていかないか?」
クールビューティーな外見にそぐわず、不思議な空気感があって、気さくな微笑みを浮かべている。
女のイメージが思っていたものとあまりにも違うので、呆然としつつ、真琴も尋ねたいことがあったので彼女について行くことにした。
駅近くのカフェに入り、二人は外から見えない奥の席を選ぶ。
女は真琴にコーヒーが飲めるか確認した後、二人分のコーヒーを注文し、会計も先に済ませていた。
コーヒーが出されて、真琴の方から話を切り出す。
「あの……奏とはどういった御関係で……?」
「気になるかい?」
「まぁ……」
「君は奏の恋人?」
「え!? いや、違います! 全然そんなんじゃないです!」
「そうなんだ。だったら私が貰ってもいいかな? 狙ってるんだ、彼のこと」
「え……」
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