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「思ったより日当たりが悪いですね、ここ。それに水回りの清潔感が感じられない。病気になりそうです」
――次
「前の住民はタバコを吸われてたんですか? 少し臭いが残っている気がします。これだと衣類にも臭いが移ってしまいますよね? せっかく新しく買った洋服がこれじゃあ台無しになりますね」
――次
「家賃上仕方ないですが、セキュリティが甘いし壁が薄すぎます。確か、この部屋の隣って男性ですよね? 女性を住まわせるのは安心できませんね」
奏は三件回った家全てに、重箱の隅をつつくようなダメ出しをする。
もともと真琴は都内で家賃六万以下……という厳しめの条件で探していたのだから、奏のお眼鏡に適うような物件などハナから存在しない。
不動産屋の担当者も思わず困った様子の苦笑いを浮かべている。
――一人暮らしするのを止めないって言ったのに!
真琴は奏を連れてきたことを心底後悔し、奏が文句を唱える度に、担当者に頭を下げた。
当然ながら、この日は結局どことも成約せず終わってしまった。
帰宅するなり真琴は大声を上げて不満をぶちまける。
「ねえちょっと! 今日の態度は何!? もうあの不動産屋に相談できないじゃない!」
「真琴のことを思って言っただけだよ」
「余計なお世話よ! 嫌がらせにも程がある!」
そう言って真琴は自室に篭ってしまった。第三者を巻き込んで困らせた行動に、真琴は心底腹が立っていた。
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