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翌日になっても、その次の日になっても、真琴の機嫌は最悪なままだった。
ここ最近増えていた日常会話は、スタート地点よりもマイナスになってしまったように、一切言葉を交わさなくなってしまった。
奏の様子は特に変わっていなかったが、真琴のこれ見よがしな不機嫌を理解し、あえて刺激しないように生活していた。
三ヶ月も一緒に暮らしていると、ある程度生活リズムが確立しているので、言葉を交わさなくても不自由なく生活ができる。
真琴はイライラしているせいか、仕事をしていてもなかなか集中ができず、失敗を繰り返してしまっていた。
昼休み時には職場を飛び出し、気分転換がてら職場付近を散歩していると、偶然にも前と同じ場所で一条 菜知と遭遇した。
向こうはこちらに気づくと、また目を輝かせて近づいてくる。
「やあ真琴!」
「あ、一条さん……」
「暗い顔をしているね。仕事で失敗やらかした?」
「それもあるんですが……」
「奏と喧嘩した?」
「……はい」
しばらく沈黙したあと、消え入りそうな声で肯定する。
「そう気を落とさないで。私で良ければ話を聞くよ。仕事終わりに一杯どう?」
いつも真琴の周りには奏の方が正しいという目で見る人間しかいなかったので、自分と奏を対等に扱ってくれる人間に話を聞いてほしくてたまらなかった。
菜知とは知り合って間もないが、彼女はその辺りをフェアに判断してくれるような気がしたので、その誘いに乗ることにした。
その場でスマホを取り出し、メッセージアプリの友達登録を済ます。
メッセージの最新の履歴は奏のものになっていた。
喧嘩中とは言え、何も言わなければ奏はきっと真琴の分の食事を用意するのだろう。
食材を無駄にすることは真琴の良心が許さないので、律儀に「今日の夜は外食する」とメッセージを送ると、一秒以内に既読になり、「わかった」とだけ返信があった。
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