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定時を過ぎると、菜知からメッセージが来ていたことに気づく。
お店をすでに押さえてくれたらしく、店の地図と連絡先が添えられており、現地集合とのことだった。
送られた地図を頼りに、指定の店につくと、大人っぽく高級な雰囲気が漂う小料理屋だった。しかも、全室個室のようだ。
奥の個室に案内されると、そこにはすでに菜知が待っていた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です……。あ、あの……この店、高いんじゃないんですか?」
「ウチの会社が取引先の人とよくここを使ってるって聞いてね。個室だし周りを気にせず会話ができるよ。それに今日は私の奢りさ。好きな物をお食べ。まずは生で良いかい?」
「ごめんなさい。私、今日はお酒は飲まないようにします。酔うとまともに話ができなくなりそうで……。すみません」
「なぁんだ、君も下戸だったのか」
〝君も〟というのは奏の事を指しての発言だろうと感じ取った。
菜知は真琴が知るよりも前に奏がお酒を飲めないことを知っていたのかと思うと、菜知と初めて出会った時のような胸の痛みが蘇る。
料理が並べられた所で、真琴は奏の家に居候をさせてもらってる経緯と、家を探さなければと思っている事、そして先日の奏の〝嫌がらせ〟が原因で喧嘩をした旨を掻い摘んで話した。
「君の自由意志を曲げようとする奏には賛同できないね」
話を一通り聞いた菜知は、奏を非難する言葉を発する。
真琴にとっては今までずっと欲しくてたまらない言葉で、ようやく対等に物事を見てもらえる理解者に出会えた気がして、大袈裟だが菜知が神々しく見えた気さえする。
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