【第四話】ここに居させて

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 翌日、菜知の家から職場に向かい、その日一日の労働はしっかり果たした。  定時を迎え、真琴は菜知の部屋に置いていた衣類の荷物を引き取ると、奏が待つ家に帰る。もう奏は帰っている時間のはずだ。  菜知のマンションを出る前、最後に彼女が真琴の背中を押す。 「今は居たいと思う場所に帰れば良いのさ。難しく考える必要なんてないよ」  三日ぶりの奏の家に到着して、ガチャリと鍵を回して玄関を開ける。  部屋の全ての電気が消灯されており、物音ひとつしない。  奏はまだ帰宅していないのかと思い、玄関の電気をつけると、そこには奏の靴が揃えてあった。  嫌な予感がして腹の底が気持ち悪い感覚になる。  怖がりな真琴は全ての電気をつけながら、恐る恐る家の中を進んでいくと、リビングのソファに奏が一人、微動だにせず、ただただ座っていた。 「こんな真っ暗で何してんの!? 変なことがあったらどうしようって心配したじゃない!」 「真琴……? 幻覚……?」 「本物よ!」  どすん、と勢いよく奏の横に座り、眉を吊り上げながら奏の顔を見る。こんなに覇気がなく意気消沈している奏は初めて見た。 「……帰ってきたの」 「本当に?」 「うん。……その、私もたくさん甘えてたくせに生意気ばかり言ってたと思う。ごめんなさい」 「僕も……ごめんね。真琴にどうしても離れて欲しくなかったんだ。真琴の意見を尊重してやれなかった」 「うん。それで、奏さえ良ければ、もう少しだけここに居させてください。ここに……居たいです」  真琴は奏としっかりと向き合って話をした。  恥ずかしくなると目を逸らす癖がある真琴だが、小さく震えながらも、じっと奏の目を見つめてる。  奏はその問いに応えるよりも先に、真琴の背に手を回し、自分の方に引き寄せるようにしっかりと抱き締めた。 「もう離れてほしくない」  心の底から搾るような声で応えた。
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