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翌日、菜知の家から職場に向かい、その日一日の労働はしっかり果たした。
定時を迎え、真琴は菜知の部屋に置いていた衣類の荷物を引き取ると、奏が待つ家に帰る。もう奏は帰っている時間のはずだ。
菜知のマンションを出る前、最後に彼女が真琴の背中を押す。
「今は居たいと思う場所に帰れば良いのさ。難しく考える必要なんてないよ」
三日ぶりの奏の家に到着して、ガチャリと鍵を回して玄関を開ける。
部屋の全ての電気が消灯されており、物音ひとつしない。
奏はまだ帰宅していないのかと思い、玄関の電気をつけると、そこには奏の靴が揃えてあった。
嫌な予感がして腹の底が気持ち悪い感覚になる。
怖がりな真琴は全ての電気をつけながら、恐る恐る家の中を進んでいくと、リビングのソファに奏が一人、微動だにせず、ただただ座っていた。
「こんな真っ暗で何してんの!? 変なことがあったらどうしようって心配したじゃない!」
「真琴……? 幻覚……?」
「本物よ!」
どすん、と勢いよく奏の横に座り、眉を吊り上げながら奏の顔を見る。こんなに覇気がなく意気消沈している奏は初めて見た。
「……帰ってきたの」
「本当に?」
「うん。……その、私もたくさん甘えてたくせに生意気ばかり言ってたと思う。ごめんなさい」
「僕も……ごめんね。真琴にどうしても離れて欲しくなかったんだ。真琴の意見を尊重してやれなかった」
「うん。それで、奏さえ良ければ、もう少しだけここに居させてください。ここに……居たいです」
真琴は奏としっかりと向き合って話をした。
恥ずかしくなると目を逸らす癖がある真琴だが、小さく震えながらも、じっと奏の目を見つめてる。
奏はその問いに応えるよりも先に、真琴の背に手を回し、自分の方に引き寄せるようにしっかりと抱き締めた。
「もう離れてほしくない」
心の底から搾るような声で応えた。
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