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五月初旬。
世間ではゴールデンウィーク三日目であり、街には浮かれた人々で溢れかえっている。
この日、御堂は母の日のプレゼントを買うため、繁華街へ出ていた。
何を購入するかは決めておらず、店内を見ながらその場で決めようと思っていたが、実際来てみるとどうにも女性向けの店に入る勇気がなくて、周囲をうろうろと様子見しているだけだった。
ちらちらと外から店を伺っていると、背後から自分の名を呼ぶ女性の声がした。
「あれ、御堂くん?」
自分が不審者と思われたらどうしようと、少し怯えた表情で後ろを振り向くと、そこには同じ会社の同僚がいた。
彼女は御堂にとって憧れの、高嶺の花のような存在の人だった。
「本田さん!」
「偶然だね。御堂くんも買い物?」
「う、うん。母の日に何か贈り物をしようと思って……」
「素敵! お母さんきっと喜ぶよ」
会社の同期でもある本田 真琴は普段のオフィスカジュアルよりも色鮮やかなワンピースや靴を身に纏っていた。
いつもよりおめかししている姿は職場で見るより華やかで、年頃の女の子らしさが出ていてとても可愛いと思った。
「本田さんも、買い物?」
「うん。大体用事は終わったから、後は帰るだけね」
買い物が終わったという割には、真琴は小さなショルダーバッグを下げているだけで、荷物があるようには見えない。
だがそんなことはどうでも良く、御堂はこれを二人でデートをするチャンスだと捉えて、勇気を振り絞って真琴を誘う。
「でも、なかなか女性向けのお店に入る勇気がなくて……本田さんの都合さえ良ければ、一緒に選ぶのを手伝ってほしいな……なんて……」
恐る恐る、小さな声で言葉を紡いだ。
「いいよ」
真琴は思案する様子もなく、あっさりと協力に応じた。
困っている人を見かけたら、すかさず手を差し伸べてくれる。そんな人格が御堂にとっては憧れであった。
二人きりのデートが始まることにドキドキした様子で真琴を見ていると、真琴の背後に長身の男が近づいてきた。
「真琴、これで全部?」
その男の姿に見覚えがあった――以前、飲み会で酔った彼女を家に送り届けた時に玄関先に立ちはだかった男。
男の手には複数の紙袋が握られていた。
きっと真琴の買い物というのはこれだったのだろう。
御堂は初対面の時のことを思い出し、咄嗟に体も表情も凍りついたように固まった。
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