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「……本田さんって、瀬戸さんと付き合っているの?」
「えぇ!? ち、ちがう! 付き合ってなんかない!」
真琴はその質問を受け、顔を真っ赤にして身振り手振りを交えながら大袈裟に否定した。
「ただの幼馴染! 子供の頃からの付き合いだから、家が見つかるまで匿ってもらってるだけ! 全然そういうのじゃないから! そもそも彼氏なんていないし!」
ちがう、ちがうと繰り返し、必死に否定する真琴を見て、御堂はそれを信じることにした。
奏が真琴に好意を寄せていることは、御堂から見ても一目瞭然だが、現実のところ二人は恋人関係というわけではないらしい。
さらに彼氏自体がいないと真琴は言う。
御堂はまだ自分にもチャンスがあるかもしれない、とほのかに目を輝かせた。
「おまたせ」
奏がトレーに載せた三人分の注文を運んできた。
特に会話が弾んでるとは言えないが、当たり障りのない会話をしながら、三人はコーヒーブレイクの時間を取る。
対面の席に座る優男は、常に物腰が柔らかく上品だが、ビリビリとした緊張感が発せられており、その力に負けてコーヒーの味はほとんどわからなくなってしまっていた。
試練のような時間を耐え、解散する頃合いになり一同は席を立つ。
その際、真琴が少し前屈みになり、胸元の襟の隙間が無意識に視界に入ってしまった。
一瞬だけども、ちらりと見えた白い谷間に視線が集中してしまい、ドキリと心臓が大きく脈打つ。
一つ目に留まったのは、色白な胸元のほんの一部に赤く虫刺されのような小さな痕が見えたこと。
一瞬のことだったのでよく視認ができなかったのもあるが、〝純粋〟な御堂はそのまま虫刺されか何かと思ってスルーし、それが何を意味するものなのかなどの考えに至らなかった。
三人揃ってカフェを出てると、車の多い大通りが眼前に広がる。
真琴と奏はここからタクシーを拾って帰るということで、この場で別れることとなった。
車が耐えず行き交う通りの中から、奏は随分手慣れた様子でタクシーを捕まえる。
あっという間に別れの時間が来てしまったことに、少しだけ焦りを感じた。
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