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【第五話】わがままを許して
存分に唇を睦み合わせた後、真琴は可愛げもなく〝話の続き〟をし始めた。
改めて、一緒に暮らすにあたって守って欲しいこと、心構えなど、その要求数は軽く二十を超えた。
奏はそれを笑顔で頷きながら聞いている。
――本当にわかっているのかと問いたいぐらいにこやかな笑顔で。
真琴が一通りの要求を押し付け終えると、今度は奏が口を開いた。
「僕からも一つだけいい?」
「なに?」
「来週の六月一日。この日だけ、僕に真琴をちょうだい」
「言ってる意味がよくわからないんだけど……」
「つまり、真琴が僕のわがままを何でも聞く日ってこと」
「……キス以上のことはダメだから」
「勿論、それはわかってるよ」
真琴は眉を顰めて、悩みながらカレンダーを見る。
六月一日。祝日でも土日でもなく、ただの平日だった。
「平日でいいの?」
「仕事は休んでね」
「はあ!? その次の土日じゃダメなの? それか七月一日は? 奏の誕生日でしょ? その方が良くない?」
「ダメ。その日は何もしなくていいから六月一日が良い」
奏はお得意の子猫のような視線で見つめてくる。
今回のそれは、守ってあげたいという弱々しさよりも、絶対に押し通すという図々しい圧力を感じるものだった。
真琴はその目に流される気はなかったが、奏がそこまで日付にこだわるのは珍しいし、何か理由があるのだろうと察して、折れてやることにした。
「わかった……。その日だけだからね!」
「うん、ありがとう」
「絶対に変なお願いはナシだからね!」
「勿論」
自分の意見が通ると、奏の表情は明るく灯り、朗らかな笑みを見せた。
時々見せるこの純粋無垢な笑顔は、真琴の庇護欲に火をつけ、喜んでくれるなら力になってあげたいという気分にさせられてしまう。
無意識のうちに相手のペースに流されそうになっていることに気が付いてしまい、頭を左右に振り正気を取り戻す。
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