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せっかく相手のために試行錯誤したのにも関わらず、何も頼まずに放置するというのはかえって失礼だとも感じる。
悶々とした不満が真琴の表情に表れてくる。
堪らず体ごと奏の方へ向き直り、その大きな目でじとりと睨み付ける。
膨れ面な真琴を見て、奏は何もわかっていない様子で、呑気に「どうしたの?」なんて聞いてきた。
「ねえ、今日はわがままを聞く日じゃなかったの」
「真琴の時間をこんなに貰ってるのは、十分わがままだと思ってるけど」
「やり甲斐がない……」
「寂しくさせた?」
「そういうわけじゃ……」
喜んでもらえる一日にしようと気合を入れたのに、相手にしてもらえていないことに拗ねていると知られたら、子供すぎると笑われるだろうか。
そんな自分が恥ずかしくなって目を逸らしながら、思わず本音がぽろりと溢れた。
「もっと必要とされると思ってたのに……」
いつもでは考えられないほど素直な真琴の言葉に奏は少し目を見開いた。
「僕はいつだって真琴を必要としているよ」
そう言って愛おしげに長い髪に触れる。
「だったら一つわがままを言っていい?」
「なに?」
「真琴からキスしてみせて」
真琴のお望み通り、奏は要求をする。
やっと与えられたわがままの内容に、真琴の頬の赤みはより一層濃くなった。
真琴は承諾するわけでもなく、悪態をつくわけでもなく、じとりと睨んだまま奏の方へにじり寄り、相手の体を押し倒していく。
いつもとは逆転した体勢で、奏の上に真琴が体重をかける。
奏の瞳には、拗ねながらも相手の要求を素直に飲む真琴の姿がいじらしく映る。
自分からこういったことを仕掛けることに慣れていない真琴は、優位な体勢にいるのにも関わらず緊張で固くなっていた。
最初はそっと優しく、ゆっくりと唇を重ねると、軽く啄むようなキスを繰り返した。
奏は下から手を伸ばし、相手を逃さまいとその体をしっかりと包んでいる。
「また〝内緒のしるし〟を付けてよ」
真琴は一瞬ぴくりと体が反応し、無言で睨みつけるも、言われるがまま奏の首筋の付け根に唇を添わす。
数秒間にわたって、ぢゅぅ、という音を鳴らしてご所望の通り刻印をする。
その間、下から伸びた奏の手は真琴の頭を包み込み、愛おしげにその髪を撫でていた。
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