【第五話】わがままを許して

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 夕食どきになると、奏はまた気合の入った料理を並べた。  料理を作ること、それを真琴に振る舞い、喜んでくれる姿が奏にとっての喜びだった。  なので、彼が今日の料理番を譲ることはなかった。  特製のデミグラスソースがかかった手作りハンバーグに、フレンチサラダ、コンソメスープまで添えてある。  さらには食後のケーキまで出てくる始末だった。  白い雪原のようなクリームの上に、女王の如く鎮座する赤い苺のショートケーキ。なめらかで甘い口溶けに、思わず頬がとろける笑顔になる。  奏の料理の上手さには尊敬の念を覚えるし、自分の好物の傾向をちゃっかり捉えているのにも感心する。 「真琴、美味しい?」 「美味しい! 今日食べた物は全部美味しいよ」 「良かった。真琴にもっと喜んでもらって、僕を好きになってもらいたいな」  母親に愛を乞う子供のように無垢な発言に、心が揺さぶられる。 「だからって……無理したり焦る必要なんてないでしょ。時間はいっぱいあるんだから」  ぶっきらぼうながらも心を開いた真琴の言葉を受け取ると、奏は幸せを噛み締めていた。 「今日、最後のわがままを言っていい?」 「……うん」 「『おめでとう』って言って」 「お、おめでとう……」  奏は心から満足そうに、目尻を下げて微笑んだ。  この日はこんな調子でゆったりとした時が流れていった。  しかし、何とも不思議な日だ。  奏のわがままを聞く日のはずが、大したわがままを命じられることもなく、平和な時間をただただ二人で過ごしただけだった。  腑に落ちない所は多々あるが、奏の望みは無事に叶えられたようで、お世辞無しに喜んでくれていた様子だった。 (おめでとうって、何が?)  布団の中で考えながらその日の思考は夢の中に落ちていった。 *  *  *
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