【第五話】わがままを許して

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 あれから数日が経ち、早くも梅雨の季節を迎えていた。  毎朝湿気でボサボサになった髪を整えるのに時間がかかり、真琴にとっては嫌な季節だった。  今日は室内に雨の音が届くほど強く雨が降っていた。  奏から「今日は会議があるので帰りが遅くなる」と事前に伝えられていたので、真琴は帰りに夕食の買い出しに行っていた。  その頃には雨はより一層激しさを増していた。  大粒の雨が強く地面を叩きつけ、傘をさしていてもその跳ね返りで足元が濡れる。  濡れてぐずぐすになっている足元の気持ち悪さを我慢しながらも歩み続け、マンションの前に着くと、一人の少女が入り口前に立っていた。  一目見て異様だと思ったのは、こんなにも強い雨が打ち付ける中、その子は傘も差さず、ただマンションのエントランス一点を見つめて呆然と立ち尽くしていたからである。  歳は中学生くらいであろうか? セーラー服がたっぷりと水を吸って黒く沈んでおり、肩までのショートヘアーもずぶ濡れになっており、顔が見えないくらいべっとりと張り付いた。  真琴はその入り口を通らなければいけないこともあって、見て見ぬフリができず、その子を自分の傘の内側に入れて声をかける。 「こんな所で何してるの? 迷子?」 「……家族を待っています」 「このマンションの人?」  少女はゆっくりと頷く。 「中に入って待とう?」  真琴はその子を促し、マンションのエントランス内へ迎え入れる。  明るいエントランスでその子の姿を見ると、ずぶ濡れの姿がより一段と悲惨に映る。  時刻は夜の七時を回っており、マンションの管理人はとっくに勤務時間を終えて、もう受付には居なかった。
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