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「困ったな……。これじゃあ風邪をひいちゃう。ひとまず私の家で髪や服を乾かさない? 知らない人に着いていくのはあんまり良くないことだから、怖ければ無理しなくていいけど……」
真琴はおずおずと少女に尋ねてみる。
すると少女は、真琴の目をじっと見つめて、
「お願いします」
と答えた。
落ち着いて大人びた雰囲気を持ち、言葉遣いも随分丁寧だ。
しっかりとやり取りの出来る賢そうな子が、何故こんなことになっているのだろうと真琴は不思議に思う。
咄嗟に私の家――と言ったものの、実際そこは真琴の家ではなく奏の家だ。
無許可で他人を上げるのは宜しくないだろうが、まだ年端も行かない少女をあんな状態で放置しておく方が人としてどうかと思う。
真琴は玄関まで案内すると、少女をそこに待たせた。
少女は玄関に付けられた表札をぼうっと眺めていた。
先に部屋に上がってバスタオルを取ってきた真琴は、その子をバスタオルでくるみ、滴る水分を取ってあげてから、家の中に上げ、まず浴室を案内した。
服は乾燥機にかけるので、乾くまでの間は真琴の部屋着を着るよう手渡す。
また、シャワーは自由に浴びて良いと伝える。
少女は「わかりました」「ありがとうございます」と丁寧に相槌を打って真琴の言う通りに動いた。
三十分ほど経った頃、シャワーを終えた少女はリビングへとやってきた。
「ありがとうございました」
「乾燥機、あと十五分くらいで終わるからもうちょっと待ってね。……それより、家族と連絡は取れそう?」
その問いに少女は黙って首を左右に振る。
「でも、ここに居たら何とかなると思います」
「?」
「奏はまだ帰って来ないのですか?」
「か、かなで?」
紹介してもいない人物の名前が、初対面の少女の口から発せられて真琴は目をぱちぱちとさせて言葉に詰まってしまう。
「私は瀬戸 晶といいます」
「せと……」
聞き覚えのある苗字が頭の中で反芻する。
それはこの家の表札に掲げられた苗字と一緒の響き。
「奏の妹です。失礼とは存じますが、お伺いしたい事があります。貴方は奏の恋人なのですか?」
瀬戸 奏――三歳上の兄の幼馴染。小さい頃に真琴の地元に引っ越してきた。一人っ子で父と母の三人家族。誕生日は七月一日。異性に告白された経験は数知れず。昔から容姿端麗で、何でもできる人だった。
「……え?」
記憶と違う。そんなはずはない。
長年に渡って自分が見てきた事実が覆され、真琴はただ困惑するしかできなかった。
【第五話 終わり】
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