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【第六話】あなたのことが知りたい
「えと……その……」
目の前の少女が放った言葉に困惑して、真琴は質問に応えることも、質問をすることもできなくなっていた。
真琴が口をぱくぱくとさせて言葉に詰まっている様子を見て、晶と名乗る少女は不思議そうに首を傾げる。
「?」
「奏の妹……って、本当に……?」
「はい。半分血は繋がってませんが」
「そうなんだ……」
「貴方は奏の恋人ですか?」
「……まだ、違う」
「まだ」
晶は目をぱちくりとさせた。
――その時だった。玄関の方から鍵を開ける音が響く。
咄嗟に二人の視線は音がする方に向かう。
残業後にも関わらず、家を出る時と変わらない様子でかっちりとスーツを着こなしている奏が帰宅した。
帰宅早々、奏の視界の中に二人が映ると、全てを察したかのように呆れた様子で一息吐き、第一声を放つ。
「晶、家に帰るんだ」
「奏、家に帰ってきて」
奏と晶は、ほぼ同時に真逆のことを言い出した。
「僕には帰る理由も必要もない。そもそも僕は帰りたいとも思わないし、あの家の人達だって僕が家に居てほしいなんて思ってない」
「私は居てほしいと思ってる」
「……今日は誰かに連れてきてもらったの?」
「一人で来た」
「家に連絡は?」
「友達の家に行くって手紙を置いてきた」
「尚更ダメだ。僕から家に連絡するから」
「……」
真琴は突然目の前で繰り広げられる兄妹喧嘩のようなものをただ黙って見ていた。
冷ややかで淡々とした言葉の応酬。
とてもじゃないが、二人の間に口を挟める雰囲気ではなかった。
晶は観念したのか、それともこの会話に慣れているのか、それ以上の言い合いをすることはなく、大人しく黙り込んでいた。
奏はスマホでどこかに連絡しながら、固まった様子の真琴の方をちらりと見た。
「真琴、どうしたの?」
「どうもしないけど……妹なら、もうちょっと、優しくしてあげたら……?」
「この子はこんなことで傷付く子じゃないよ。今までも何度かウチに来て同じことを言ってる。部屋にまで上がったのは今回が初めてだけど……真琴が入れちゃったんだね」
「ご、ごめんなさい……」
空気の重さに耐えきれず、真琴は思わず謝ってしまう。
「晶、迎えの車が来るって。ちゃんとお母様に謝るんだよ」
「……はい」
晶は俯いたまま、素直に返事をする。真琴はそんな晶の様子を見て、いたたまれない気持ちになる。
――まだ子供の彼女が、家族に会いに来るのはそんなにいけないことなのだろうか。
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