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すっかり忘れていた洗濯機の乾燥完了の機械音がリビングに届いた。
晶はもともと着ていた制服姿にまた戻る。
どこの制服かはわからないが、上品でどこかの私学と思われるセーラー服姿だった。
奏がどこかに連絡してから十分もしないうちに、家のインターホンが鳴った。
奏はそれに応答すると、晶を連れて無言で外に出た。
晶も大人しく付き従った。
しばらく家の中には真琴一人だけの沈黙の時間が流れる。
そして十分ほど経つと、奏だけが家に戻ってきた。
まだ重い空気が部屋中に張り詰めている中、真琴はじとりと無言で奏を見つめている。
晶に会ってからの奏は、いつも浮かべている薄笑いを一切見せていなかった。
そんな奏を今まで見たことなかった真琴は、少し恐怖感を覚える程に奏の冷たい一面を見た。
「心配しなくて良いよ。ちゃんと送り届けたから」
「……私が言いたいこと、わかるわよね?」
「何だろう?」
「誤魔化さないで! 私が今まで見て聞いてきた事実と違ってる……家庭のことだから、言いたくなければ言わなくても良いの。でも、びっくりしたんだから……」
「ごめんね。あまり表沙汰にするような事情じゃないんだ。それに、僕からは話すことができない内容もある」
奏はいつもの薄笑いを浮かべた。普段通りの奏の表情に戻ったことに、少し安堵感はあるものの、やっぱり胸の奥に何か詰まった感じがする。
重い空気を払拭するためにも、真琴は勇気を出して奏に近づく。
「それでも、奏のことが知りたい」
そしてもう一歩近づき、身長差のあるその顔を上目遣いで見つめる。
「話せることだけでもいいの」
奏は眉を八の字に下げ、困り笑いのような表情を浮かべ、それでも愛しげな瞳で真琴を見つめる。その手を目の前の真琴の後頭部に添わせ、優しく撫でるとゆっくり頷いた。
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