【第六話】あなたのことが知りたい

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 改まって、二人はリビングのソファに隣同士に腰掛けると、真琴は相手が話すのをじっと待っていた。 「人に聞かせる話じゃないし、実際大した話ではないんだけど」  そう前置きをして、奏は自分の身の上を明かす。 「僕の父は代々受け継いでいる大地主の資産家なんだけど、まあろくでもないことをしてしまって。早い話が本妻以外にも女がいて、その両方に子供を作ってしまったんだ。現在瀬戸家には三人の子供がいる。兄、僕、妹。兄と妹は本妻の子だけど、僕だけは妾の子なんだ。戸籍上は養子として瀬戸の家に入ってる。」 「そう……。子供の頃、一緒に暮らしてた人は……?」 「あの人達は父と母ではないよ。そう振る舞ってもらってたけど、瀬戸が雇った人間で、二人とも他人だよ」 「そんな……」  長年に渡って見てきたものが否定され、絶句した。 「奏は実家には居させてもらえなかったの?」 「いや、生まれてすぐに母親から離されて瀬戸に引き取られたから、最初はあそこで育てられたよ。ただ、僕があそこに居たくなくて、瀬戸の家から出たんだよ。だから、晶が言ってることはお門違いなんだ」  何とも複雑な家庭環境のようで、平凡かつ平和な家庭に生まれ育った真琴には想像のつかない世界だった。  不用意に傷付ける発言はしたくなくて、奏の目を不安げに見つめることしかできない。  真琴の心配を感じ取ったのか、奏は一段と優しい目をして微笑む。 「真琴は心配してくれてるんだね」 「そりゃあ……」 「ありがとう。でも本当に何も気にする必要はないんだ。あの家には殆ど関わる事がないけど、ちゃっかり利用はさせてもらってるしね。例えばこの家とか」  真琴はその言葉を聞いてはっとした表情になる。確かに、奏は同年代と比べると高給取りだろうが、このような高級マンションで何不自由なく暮らしているのは少し疑問があった。  相場からして、家賃だけでもウン十万はするはずだ。  ――このマンションは瀬戸家が所有している物だったのか。それを聞いて、家族仲が致命的な程険悪な訳ではなく、また奏もそれを気にしている様子がないことを感じ取ると、ようやく真琴はほっとした表情になる。  真琴の安堵が確認できると、奏は腕を伸ばして真琴の手首を掴んだ。体を引き寄せて、真正面に向かわせて近接近する。 「ねえ、僕は残業から帰ってきて、夕食もまだなのに晶のことでいろいろ疲れてるんだけど?」 「え、ちょっと!」  手首を掴んでいない反対側の手が真琴の背に周り、そのままゆっくりと体重をかけてソファに押し倒してゆく。真琴の体は特に抵抗することなく、奏を受け止めた。 *  *  *
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