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「さっきも言ったけど、今回については本当に助けたい一心だよ。使ってない部屋が一つあるから、真琴はそこで過ごしてもらう。ちゃんと鍵も付けられる部屋だから」
鍵付きの別室があるということを聞いて安心したようで、真琴のこわばった表情が少し緩むと、奏はさらに距離を詰めて来た。
「それに、そういうことはついてくる前に言わないと。家に上がってからじゃ遅いよ。真琴、もしかして他の男にもそんな調子じゃないよね?」
奏は覗き込むように瞳をじっと見つめる。真琴は意味がわかると顔を赤らめ、視線を逸らしてしまった。
「そんなことわかってるわよ……念の為、確認してるだけなんだから」
「そう。着替えは僕の部屋着をひとまず使って。必要なものはまた今度買い揃えよう」
そう言って奏はまたキッチンの方に向き直した。
真琴はその言葉に甘えるように、奏の部屋着を抱えてバスルームへ向かった。
バスルームも当然のように手入れが行き届いており、カビのひとつも見当たらない。
本当だったら今夜は定時退社でケーキを食べていたはずだったのに……そんなやるせない気持ちも、綺麗さっぱり水に流すことにした。
お風呂から上がると、与えられた奏の部屋着に着替える。
奏は細身だが、身長差が約二十センチもあるものだから、さすがにオーバーサイズだった。
着るときに無意識に服の匂いをかいでしまった。
うっすらと柔軟剤の香りがするが、ほぼ無臭に近かった。確かに奏は無臭のイメージだ、と真琴は妙に納得していた。
脱衣所の洗面台横にドライヤーがあったので、拝借してロングヘアーを乾かす。
髪を乾かし始めてから十分ほど経った頃だろうか、大好物のミートスパゲッティの香りが脱衣所まで届いていた。
着替え等を終えてキッチンに行くと、ちょうど良いタイミングで料理が完成したようだった。
本当にこの男は嫌味なくらい完璧超人だ。
戻った真琴の姿を見て、奏は動きが一瞬固まったように感じる。
真琴は不思議そうに眉を顰めるも、すぐに奏の動きは元に戻る。
「さ、今日は疲れたでしょ。ご飯にしよう」
「……うん。いただきます」
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