【第六話】あなたのことが知りたい

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 ――二十六年前。  瀬戸家の当主である、瀬戸 (わたる)は同時に二人の女を愛してしまった。片方とは一年前に出会い、すでに本妻となっていた。  もう片方は出会ったその日に恋に落ち、瞬く間に肉体関係を結んでしまった。  問題が露呈したのはその後、二人共が同時期に身籠っていることが判明してしまったためだ。  本妻――瀬戸 加奈子(かなこ)は夫の裏切りに憤慨した。  しかし、亘は二人を平等に愛してしまい、その新しい命に対しても平等に愛することとして、妾――雛乃(ひなの)の堕胎は許さなかった。  当時、激しく論議がなされたが、瀬戸家の絶対的存在は当主の亘であり、加奈子は本妻としての立場を失いたくないという意地もあった。  最終的に、加奈子の子供が当主を継ぐという絶対条件と引き換えに、加奈子は夫の意志を尊重することとなった。  亘によって、加奈子の子供には(なつめ)、雛乃の子供には奏と命名された。  加奈子の出産予定日のほうが早く、棗が長男となる筈だったのに、またもや問題が発生する。  雛乃の予定日が早まり、さらには加奈子の予定日が遅れてしまい、あろうことか妾の子――奏が先に産まれてしまったのだった。  奏が産まれたその二週間後、六月十五日に棗が産まれた。  さらに運が悪いことに、棗は生まれつき心臓が弱く、今後の健康状態に不安があった。  これには瀬戸家も騒然とする。今後、瀬戸の家を継ぐのは棗でなければならないのに――……。  そこで、奏の生まれた日を一か月遅らせ、次男として扱うこととし、棗の体調不安の保険として、養子縁組をした上で瀬戸で育てられることとなった。  奏の出生に関することは、絶対に口外してはいけない禁忌とされ、瀬戸家でも限られた人間――亘、亘の父母、加奈子、雛乃、奏本人のみが周知としていた。 *  *  *
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