【第六話】あなたのことが知りたい

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 ある時、同じクラスで仲良くなった健太郎という子の家に遊びに行くと、小さな女の子が健太郎の後ろをついてまわっていた。 「こら! 真琴! めっ!」 「まこももやる! やる!」  まだ自分の名前さえきちんと発音できていない女の子は、初めて見る奏の顔を見ると物怖じせずに近づき、一緒に遊んでほしいと乞うてきた。 「真琴っていうの?」 「うん! あそぼ!」 「へえ、可愛いね」 「ごめんな奏! ほらもう、ダメだってば!」  こんなに小さい命が、自分に懐き、自分を必要としてくれている姿が愛らしくて仕方なかった。  それから奏は健太郎の家によく遊びに来ては、真琴の面倒を見つつ、健太郎とも遊んだ。  要領良く二つのことを同時にこなす奏には、真琴と健太郎の母親も驚きを隠せなかった。  最初は真琴に対し、友愛の気持ちで接していたものの、直向きに純粋で尊いその命を、自分にとってかけがえのないものと感じるようになっていく。  今までくすんだ色で見えていた世界が、彼女がいる場所だけまぶしいくらい色鮮やかに見えた。真琴の笑顔を見ると、心の底に温かさを感じる。自分がここに居て良いんだと、必要としてくれていると、自分の全てを肯定してくれる気がした。  ――こんなにも、愛しい。一生そばに居たいと思った。自分が初めて持ち合わせた感情らしいものがそれだった。 *  *  *
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