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ある時、同じクラスで仲良くなった健太郎という子の家に遊びに行くと、小さな女の子が健太郎の後ろをついてまわっていた。
「こら! 真琴! めっ!」
「まこももやる! やる!」
まだ自分の名前さえきちんと発音できていない女の子は、初めて見る奏の顔を見ると物怖じせずに近づき、一緒に遊んでほしいと乞うてきた。
「真琴っていうの?」
「うん! あそぼ!」
「へえ、可愛いね」
「ごめんな奏! ほらもう、ダメだってば!」
こんなに小さい命が、自分に懐き、自分を必要としてくれている姿が愛らしくて仕方なかった。
それから奏は健太郎の家によく遊びに来ては、真琴の面倒を見つつ、健太郎とも遊んだ。
要領良く二つのことを同時にこなす奏には、真琴と健太郎の母親も驚きを隠せなかった。
最初は真琴に対し、友愛の気持ちで接していたものの、直向きに純粋で尊いその命を、自分にとってかけがえのないものと感じるようになっていく。
今までくすんだ色で見えていた世界が、彼女がいる場所だけまぶしいくらい色鮮やかに見えた。真琴の笑顔を見ると、心の底に温かさを感じる。自分がここに居て良いんだと、必要としてくれていると、自分の全てを肯定してくれる気がした。
――こんなにも、愛しい。一生そばに居たいと思った。自分が初めて持ち合わせた感情らしいものがそれだった。
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