【第七話】触れてほしいだなんて

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 翌日、仕事帰りに百貨店へ寄り道をする。  メンズファッションフロアに到着すると、不慣れな様子でキョロキョロとあたりを見渡した。 (そういえば奏が身に付けてる物って明らかに高級そうなのよね……。良い物買わないとこっちが恥ずかしい思いしそう……)  普段は縁がないハイブランドの店舗に足を踏み入れる。例えどんな小物であっても可愛くないお値段のお店に入るのは非常に勇気が必要だった。  そもそも、まだ何を買うつもりなのかしっかり考えていなくて、どこから見て回ろうかと考え込む。  店内に入ったきり立ち止まっていた真琴に対し、上品な振る舞いの男性店員がふわりと声をかけてきた。 「何かお探しでしょうか?」 「あ、ええと、プレゼント用で……普段使いできそうな……ネクタイとか?」 「畏まりました。ご案内いたします」  そう言って店員は様々なネクタイが並ぶ棚へと真琴を案内した。  その棚には色とりどりの柄があしらわれた生地が並んでおり、とても華やかな空間が創られていた。  表面につややかな光沢があり、しっかりと厚みのあるそれらは、小さい面積でも〝質が良い生地〟であるのが一目で感じ取れた。  奏は普段モノトーンだったり、寒色系の色の物を選ぶことが多かったので、それらの色を選べば無難に済むということは想像に難くなかった。  しかし、プレゼントであれば、普段自分が選ばない物だったり、第三者視点で似合うものを選んでもらった方が嬉しいというのが真琴の意見だ。  商品を一つずつ手に取り、その度に彼が着用している姿をじっくり想像してみる。  隣の店員は商品を手にする度、ご丁寧に商品の説明をしてくれるが、聞き慣れない単語が飛び交うので、あまり頭に入らなかった。  その中でひとつ、ぴたりと手が止まる商品が現れた。
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