【第七話】触れてほしいだなんて

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 ベースカラーは男性でも似合う落ち着いたピンクベージュに、さりげなく水色と藍色のチェック柄が施されているデザインのネクタイを見つける。  少し珍しい色の組み合わせだが、上手く調和されておりとてもオシャレな一品だった。  店員は、その商品がいかに高級な素材で作られたかを解説したあと、白もしくは水色のカッターシャツと合わすのがオススメの着こなしだと教えてくれた。  幸いにも奏は顔とスタイル〝だけ〟は文句なしに良いので、何を着せたって様になってくれるはずだ。  ピンクは真琴の好きな色だし、水色は奏に良く似合う色なので、これを贈りたい、寧ろこれしかないと直感する。  値札を確認すると、自分の服でさえそんな高価なものを買ったことがない値段だったが、このブランドの相場を考えると許容範囲内だった。 「これにします」 「ありがとうございます。それではプレゼント用に包装して参りますので、しばらくお待ち下さい」  真琴が即決した商品を持って、店員はスタッフルームの奥へ消えて行った。  店員の帰りを待つ間、店内の椅子に腰を掛けてみたが、やっぱり慣れない高級店の空気に落ち着かず、周囲をキョロキョロと見渡してしまう。  店員が戻ってきて、包装の確認とお会計を済ますと、落ち着かないその店を足早に退散した。  帰りの電車の中では、プレゼントの袋を大事に抱えて、奏がどんな反応をするだろうという妄想に耽った。  自分の好きなカラーをプレゼントに込めるという行為は、彼の一部を自分色に染めて独占しているような気分になる。それでも、彼が喜んでくれれば良いなと純粋に願って、その日は無事に帰宅した。  プレゼントは見つからないように、自分の部屋のクローゼットの奥に仕舞い込み、当日まで眠ってもらうことにした。 *  *  *
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