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そして、七月一日当日。
その日は平日だったこともあり、夜まではいつも通りの変わらない日常を過ごしていた。
普段なら真琴が自室に戻って寝る準備をするタイミングで、先日のプレゼントを体の後ろに隠し、リビングのソファに座る奏に近づいていく。
「あの、今日、誕生日……おめでと。何もしなくても良いって言ってたけど……やっぱりそう言う訳にもいかないし……」
もごもごと口ごもりながら言葉を紡いでいく。
「ああ、今日ね。でも本当に何もしなくても……」
「これ、あげる」
奏の言葉を遮り、プレゼントを目の前に無理やり押し付ける。
視線を逸らし、顔を真っ赤にして、眉を吊り上げながらぶっきらぼうな様子で包装された何かを差し出す真琴に対し、奏は驚いた表情で、プレゼントと真琴の顔を交互に見やる。
「僕に? 真琴から?」
「そうよ」
「……真琴が中学生二年生の時ぶりだ……」
「何でそんな細かいこと覚えてるのよ……」
「凄く嬉しいよ。開けても?」
「う、うん。……いいよ」
奏が包装を解く間、真琴は緊張しながら奏の隣にそっと並んで座った。
不安もあって、奏の反応を直視するのは怖かったが、喜んでくれる瞬間は見逃したくない。
ドキドキで胸が張り裂けそうになりながらも相手の顔をじっと見つめる。
箱の中身を見た瞬間、奏は目をきらきらと輝かせ、頬もうっすら紅潮して血色が良くなった。
口元も緩んで一気に表情が明るくなる。
とても嬉しそうなことが一瞬で伝わった。
奏はプレゼントのネクタイを宝物に触れるかのように手に取り、丁寧に隅々を眺めた。
「生地の質も良いし、素敵なデザインだね。何より、僕と真琴の好きな色が入ってる。真琴が僕のために選んでくれた証拠だね」
選んだ理由を見抜かれてしまい、照れ臭くて何も言葉を返せなかった。
その沈黙が肯定の証であることを奏は理解していた。
「今日は丁度〝真ん中〟だし……僕も何か準備すれば良かったな」
「真ん中?」
「ううん、こっちの話」
奏はニコニコと薄笑いと浮かべて、真琴の質問をはぐらかす。
奏は時々、真琴には理解できない言葉を会話に混ぜ込んでくることがあるので、それに対してどう反応したら良いのかわからない。
真琴が少しだけ困惑した表情をしていると、奏は身を乗り出し、ご機嫌な顔を至近距離まで近づけた。
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