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「来月――八月一日は真琴の誕生日だよね。楽しみにしてて」
そう言うとニッコリと笑い、真琴の腰に手を回して抱き寄せ、唇をそっと重ねた。
ふわりと優しいキスを一度だけした後、もう一度奏は笑って「本当にありがとう」と感謝の言葉を述べた。
奏の一連の仕草に、真琴はキュンと胸が高鳴る。
もっと奏の笑顔を独占したいような気になってしまい、引き留めるように彼の腕を無意識に掴んでしまった。
「……キス、一回だけで良いの?」
真琴の言葉に、奏はまた驚いた表情を見せたものの、すぐにまた余裕のある笑みに戻って真琴の頬を撫でる。
「何回まで許してくれるの?」
「別に、決まってないけど」
「じゃあ、気が済むまで」
「……」
ゆっくりと顔を近づけ、また優しく唇と重ねたと思うと、奏の舌が口内に侵入してこようと少し強引ににじり寄ってきて、真琴の口内をいとも簡単にこじ開けてしまう。
「んぁ……っ」
入り込んだ奏の舌は、歯列の裏側をゆっくり丁寧になぞって、こそばゆい感覚に襲われて肌が粟立つ。
徐々に舌同士を絡ませて、唾液を交換するように、二人の境界は溶け合っていく。
奏の体に添えた手に力が入らなくなっていき、ふにゃふにゃになっていく真琴の身体を、奏はしっかり包んで支えている。
体の芯が温かい快感で満たされて、もっと他の場所にも触れてほしいと感じてしまい、乞うような視線で相手の瞳を見つめる。
それでも奏は〝キス以上のこと〟には手を出してこない。
「か、なで……っ、これ以上は……」
「まだ僕の気がすんでないよ?」
「私、が……変に、なっちゃう……」
「へえ。見てみたいな」
「バカ……っ」
顔を無理やり奏の胸元に埋め、これ以上キスが出来ないように唇を防ぐ。
「真琴が可愛いから一生このままで良かったのに」
「……ずるい」
真琴がそのままじっと動かずにいると、奏は自分の胸元で動かない真琴の後頭部を宥めるように優しく撫で始めた。
顔を付けた胸元からは、奏の心音が聞こえる。
自分ほどではないけれども、ドクドクと激しく脈を打っているのがわかる。
奏の飄々とした表情から想像がつかないほど、彼もまた興奮していることがわかった。
キスだけなのがこんなに辛いことだとは夢にも思わなかった。しかも、その制限は自分から付けたものなのに。このままキスを続けていたら、自らその制限を破ってしまうに違いなかった。
――でも、それの何が悪いのだろうか?
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