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机に並ぶ美味しそうな料理に自然と表情が綻ぶ。
ミートスパゲッティ以外にも、色鮮やかなサラダボウルも用意されていた。
食器も美しいものが揃っており、本当に隙がない。
真琴は過去に奏の料理を食べたことがあり、味は絶品であることが保証されていたので、料理に関しては警戒心なく心を開いた。
散々なことがあったけど、絶品の大好物が食べられることが素直に嬉しくて、喜びを隠せない表情で夕食に手をつける。
真琴が夢中で食事をしていると、正面に座る奏の手は止まっていた。
それが視界に入ると、疑問に思いふと顔を上げてみた。
相手の顔を見ると、向こうはこちらをじっと見つめて固まっていた。
その表情は、いつもの薄ら笑いを十倍くらい上機嫌にしたような表情で、非常に満足そうだった。
「な、なに?」
「真琴の笑顔を見るのは久々だなって」
「奏が嫌がらせをしてこなければ私だって普通に笑うんだけど。そんなに見られてると食べられないからやめてよ」
「あ、そういえばコレ、渡しておくから……」
机の上には、何もキーホルダーがついていない素の状態の鍵が置かれた。この家の合鍵だった。
「うん……。あ、あの、ありがとうね。いろいろ、助けてくれて……想像してたよりも良い環境を与えてもらって、正直すごく助かった」
今まで真琴にとって奏は天敵であったので、その相手に謝辞を述べる日が来ようとは思ってなかった。
自分がお礼を言うと、てっきり喜んでくれるとばかり思っていたのに、相手はニコニコと笑みを浮かべているだけで返事がなく、少し不安になる。
その後も奏はニコニコしているだけで、ろくに話さず、返事も生返事のようだった。
薄気味悪いが、特に奏と話を弾ませたいわけでもないので、真琴は気にせずそのままにしてやり過ごすことにした。
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