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奏に触れたい、触れられたい、そんな欲が沸々と煮えたぎる。芽生え始めた奏への愛おしさと、正直すぎる肉欲が混ざり合って、今にも楽になりたい。
こんな状況でも、まだ自分を堰き止めている何かの正体が分からなくて、どうしたらいいのかわからない。
ぎゅっと目を閉じて、心音を鎮めるように深い呼吸をする。心の底から浮かんできた言葉を呼び起こす。
――好き。
でも、その一言が口に出せない。たった一言だけなのに。こんなに近くにいるのに。
しばらく二人は言葉は交わすことなく抱き合ったまま、時計の針はとっくに次の日の時刻を刻み始めていた。
体に満ちていた熱が落ち着いてきて、ようやく奏の体から離れることができた。
「今日はもう寝る」
熱がぶり返さないうちに一人になりたい。早く自室に戻ろうとして、奏とは目を合わせずにそそくさとリビングに背を向ける。
「真琴、好きだよ」
しんとした室内に、背後から優しい声が響いたので、思わず立ち止まってしまった。応えてはダメだ、振り向いてはダメだ、と心の中で何度も唱える。
「ほんと、ずるいんだから」
真琴は精一杯絞りあげた言葉で弱々しく返事をすると、逃げるように自室に駆け込んでいった。
【第七話 終わり】
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