【第八話】変わらぬ君がいた

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 その日の仕事が終わり、真琴は満員電車に揺られて帰路に着く。  最近はすっかり気温が高くなってきて、半袖や、生地の薄い服の人が増えた。満員電車の中では、周りの人の体温が以前よりも直接的に伝わってきて、より暑さを感じる。  あと十分ほどこの不快感に耐えるだけ……一点を見つめて、何も考えずに立っていたのだが、少し前からお尻のあたりに一層熱を感じることに気がついた。神経を集中して何が触れているのかを考えていると、左側のお尻のカーブに合わせてふんわりと人の手が添えられていることに気がついてしまう。 いつから触れていたのかわからないくらい自然に、気がつけばそこにあった。  また、その手は動く様子がなかったので、ぼうっとしていればそのまま気が付かなかったくらいに自然だった。 (これって痴漢……? でも動いてないし、たまたま当たってるだけかも……)  困惑しているうちに電車は停止し、降りる筈の駅名を告げていた。  はっと我に返り、慌ただしく「すみません」と声をかけながら、乗客を掻き分ける。  電車を無事に降りた後、振り返って先程まで乗っていた車両を一瞥(いちべつ)する。 (ただの偶然、だよね……) *  *  *
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