【第八話】変わらぬ君がいた

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 さらにその翌日、真琴は覚悟を決めて電車に乗り込む。  相手を誘き寄せるように、あえて昨日と同じ立ち位置に行った。ぼうっと車内広告を眺めて無警戒のフリをしてみせると、どこからともなく真琴のお尻に手が伸びていた。 (――来た! 絶対昨日と同じ奴だ……! 今度こそ捕まえて――……)  そう息巻いた途端、真琴の耳元にはぁ、はぁ、と荒い息がかかる。突然襲い掛かった触覚と聴覚にびくりと体が反応した。  はぁはぁ、ふぅふぅとその息は真琴の耳元で聞こえ続け、その度生ぬるい風が耳を掠めて髪が密かに揺れる  ゾッとするような不快感が全身を縛り付けた。  真琴は自分の甘い考えと浅はかな行動を後悔した。  三度も同じ場所に居るということは、その行為を受け入れたものだと相手は思い込んでいるらしい。  予想外の出来事に真琴の体と思考が停止していると、お尻に触れていた手はスルスルと大胆に動き出し、そうっとスカートを捲り上げ、衣服の中に侵入してきた。  その手は下着越しのお尻に対し、確かめるような動作で左右に動かしたり、握ってみたりして、その膨らみを(もてあそ)んでいる。  必ず捕まえると息巻いていたのに、恐怖で完全に動けなくなってしまった。  このまま下着の中まで手が入ってきたらどうしようと小さく震えていると、その手は急に動きを止めて、車内に男の声が響いた。 「オッサン、痴漢だろ! 次の駅で降りろよ!」  周囲の視線が一気に声の方へと向かう。  若い男性が、中年男性の腕を掴み、頭上へ高く掲げていた。  連続する突然に勿論驚いたのだが、さらに真琴を驚かせたのは、痴漢を捕まえたその男の顔に見覚えがあったからだ。  痴漢男は周囲の視線を一心に集めたことへの羞恥からか、バツの悪そうな表情をして、一言も発さずに下を向いている。  電車が駅に着いてドアが開くと、若い男性は痴漢男を引っ張るようにして電車を降りてゆく。 「ほら、お姉さんも一緒に!」  真琴は呆然と立ち尽くしていたが、我に帰って急いで電車を降りる。  若い男性はすぐそばに居た駅員に痴漢男を引き渡していた。その場に駆け寄ると、その男はこちらを見た。  やっぱり、見間違いではなかった。
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