327人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、ありがとう……ございました。〝柚木くん〟……」
「どういたし……え? あれ? ……真琴!?」
柚木 恭平。真琴の高校時代の同級生であり――
「お前だったのかよ! ……高校卒業ぶりか? てか、まだその呼び方……嫌味ったらしいぞ」
真琴の初めて付き合った人だった。
衝撃の再会に二人は互いの顔を気まずそうに見つめていると、すぐ後ろにいた駅員が突然叫んだ。
「こら! 待ちなさい!」
二人がその声の方を慌てて見ると、なんと痴漢男が逃走を図っていた。
掴んでいた駅員の手を振り解き、猛スピードで階段を駆けたあと、上手く人混みに紛れてしまい、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。
「おい、追うぞ!」
「えっ! あ、ちょっと!」
恭平は痴漢男が消えた方角へ走り出し、真琴も恭平の後を必死に追いかけた。
逃げた方角の改札を出て、駅周辺を見渡すも、それらしき男は見当たらない。
これ以上はどこに進んだかわからない。
立ち止まる恭平に、少し遅れて真琴が追いついた。
激しく息切れして、もう走れないといった状態で、両膝に手を着いて身を屈めている。
「クッソ……、もう居ねえ。逃した」
「はぁ……っ、はぁ……っ、もう無理……」
喉の奥が鉄の味で充満している。体全身で酸素を求めるように大きく呼吸をする。
「しゃあねえ。とりあえず、駅員に被害報告だけでもしとくか。おい、こんぐらいで何へばってんだよ、行くぞ」
「ま、待ってよ……」
真琴は肩で息をして、まだ落ち着いていないのにも関わらず、恭平はまた歩み出そうとする。
「お前の運動不足なんか知るかよ。さっさとしろ」
(何でコイツはいつもこうなのよ……本当に最悪!!)
最初のコメントを投稿しよう!