【第八話】変わらぬ君がいた

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「あの、ありがとう……ございました。〝柚木(ゆずき)くん〟……」 「どういたし……え? あれ? ……真琴!?」  柚木(ゆずき) 恭平(きょうへい)。真琴の高校時代の同級生であり―― 「お前だったのかよ! ……高校卒業ぶりか? てか、まだその呼び方……嫌味ったらしいぞ」  真琴の初めて付き合った人だった。  衝撃の再会に二人は互いの顔を気まずそうに見つめていると、すぐ後ろにいた駅員が突然叫んだ。 「こら! 待ちなさい!」  二人がその声の方を慌てて見ると、なんと痴漢男が逃走を図っていた。  掴んでいた駅員の手を振り解き、猛スピードで階段を駆けたあと、上手く人混みに紛れてしまい、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。 「おい、追うぞ!」 「えっ! あ、ちょっと!」  恭平は痴漢男が消えた方角へ走り出し、真琴も恭平の後を必死に追いかけた。  逃げた方角の改札を出て、駅周辺を見渡すも、それらしき男は見当たらない。  これ以上はどこに進んだかわからない。  立ち止まる恭平に、少し遅れて真琴が追いついた。  激しく息切れして、もう走れないといった状態で、両膝に手を着いて身を屈めている。 「クッソ……、もう居ねえ。逃した」 「はぁ……っ、はぁ……っ、もう無理……」  喉の奥が鉄の味で充満している。体全身で酸素を求めるように大きく呼吸をする。 「しゃあねえ。とりあえず、駅員に被害報告だけでもしとくか。おい、こんぐらいで何へばってんだよ、行くぞ」 「ま、待ってよ……」  真琴は肩で息をして、まだ落ち着いていないのにも関わらず、恭平はまた歩み出そうとする。 「お前の運動不足なんか知るかよ。さっさとしろ」 (何でコイツはいつもこうなのよ……本当に最悪!!)
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