【第八話】変わらぬ君がいた

6/11
前へ
/150ページ
次へ
 言いたいことを声に出す元気が残っておらず、心の中で思い切り恭平を(ののし)った。  この男は高校の頃からこれっぽっちも変わっていない。  口は悪いし自分勝手に振る舞う。真琴が傷付くことを平気で言うのだ。  くるみ曰く、暴言男。  ――でも、本当は誰よりも正義感があって、真っ直ぐな男であることを真琴は知っている。  不器用だけど真っ直ぐな所に惹かれて、高校時代の二人は交際をスタートさせた。  しかし、両者とも今よりもっと頑固で、反発しあってばかりの二人はいつも喧嘩が絶えなかった。  結局、いつもの喧嘩が罵り合いの大喧嘩に発展して、二人はそのままの勢いで別れてしまった。  別れた日以降、真琴は彼のことを〝恭平〟ではなく〝柚木くん〟と呼ぶようになった。  恭平にはそれが嫌味に聞こえるらしい。  高校を卒業してからは、二人は顔を合わすどころか、連絡を取る事もなかった。  真琴は恭平に最後に言われた言葉を今でも根に持っていて忘れられなかった。  言葉のすれ違いさえなければ、彼のことを好きになったのは間違いではなかったと思っていたからである。  真琴は恭平と一緒に駅構内へ戻り、駅員に先程の件を報告する。  すでに警察へ連絡をしたので、少し待っていてほしいと言われ、駅員室の奥へ案内された。  しばらくすると警官が到着して、恭平と一緒に簡易的な事情聴取を受けた。  根掘り葉掘り問い詰めてくる警官に対し、真琴が言い淀む場面があれば、変わりに恭平が答えてくれる場面があった。  第三者に囲まれて、自分がされたこと報告するのは羞恥もあり、答えにくい場面があったので、恭平の取った行為は頼もしく感じ、とても有難かった。  たった数分間の出来事を数十分に渡って説明し、やっと警官から解放された時には、すでに時計の針は夜九時を回っていた。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

327人が本棚に入れています
本棚に追加